大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌地方裁判所 昭和45年(む)633号 決定 1970年10月30日

被告人 西谷勝旗

決  定

(事件名住居、職業氏名略)

右の者に対する頭書被告事件についての勾留取消請求について、昭和四五年一〇月一二日札幌地方裁判所裁判官がなした右請求棄却の裁判に対し、弁護人から準抗告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件準抗告を棄却する。

理由

一、(申立の趣旨および理由)

本件準抗告申立の趣旨および理由は、弁護人提出の準抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用する。

二、(当裁判所の判断)

一件記録によれば、被告人は、昭和四四年九月二八日、三七件の詐欺罪で逮捕され、同年一〇月一日同罪で勾留され、一〇日間の勾留期間延長後、同月二〇日に右事実のうち三〇件の詐欺罪で起訴され、以来九回にわたつて右勾留期間の更新がなされていること、また同四五年二月二一日付で追起訴された別件詐欺罪で同月二三日に重ねて勾留され、以後六回にわたつて右勾留期間の更新がなされたこと、更に同四四年一〇月二〇日付起訴以降、同四五年五月一五日まで前後一九回にわたり、一、一〇〇余件の同種詐欺罪で起訴され、その後同年一〇月一四日に第一回公判期日が開かれ、更に一〇月一六日受訴裁判所において、右二個の勾留の期間をいずれも更新する決定がなされ、その後同月二〇日にいたつて本件準抗告申立がなされていることが明らかである。

ところで、起訴後に勾留を維持するか否かは、裁判所の審判の必要という観点からなされるものであるから、被告人の勾留に関する処分は、当該被告人の審理を担当する受訴裁判所が本来行うべきところ、第一回公判期日前の段階においては予断排除の要請から、別の裁判官が担当する旨が規定されている(刑事訴訟法二八〇条一項)のであるが、前記起訴後の勾留の目的からすれば、第一回公判期日を経た後の段階においては、被告人の勾留に関する処分についての判断は、専ら受訴裁判所に委ねられるべきである。以上の趣旨からすれば、起訴後、第一回公判期日前に裁判官によつてなされた勾留に関する処分に対して、第一回公判期日を経た後の段階に至つて準抗告の申立がなされた場合にも、同様に、準抗告審において、右裁判官のなした被告人の勾留に関する処分の当否の判断はなし得ないと解するのが相当である。(仮りに第一回公判期日前になされた勾留に関する処分について、第一回公判期日後でも準抗告を申立て得るものとするならば、準抗告審の判断如何によつては、第一回公判期日後被告人の勾留に関する処分を担当する受訴裁判所の関知しない間に、被告人の勾留関係に変動を来たすことになり、このようなことは、訴訟法の建前上許されないものというべきである。ことに右のような準抗告が、第一回公判期日後、受訴裁判所において勾留期間更新の決定がなされた後に、申立てられた場合について考えると、受訴裁判所が既に審理を開始し、審理をするうえで被告人の勾留を継続する必要があると判断しているにも拘らず、その後において準抗告審がなお被告人の勾留に関する判断をなすことになり、このようなことが不合理であることは明らかである)。

これを本件についてみるに、本件準抗告は、前記のとおり第一回公判期日後、受訴裁判所によつて勾留期間更新決定がなされた後の昭和四五年一〇月二〇日になされたものであることが明らかであり、前記の理由により、準抗告審においても既に被告人の勾留に関する処分の当否について判断することが出来ない時期になつて申立てられたものであるから、不適法な申立として棄却すべきである。

三、(結論)

よつて本件準抗告の申立は不適法であるから、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例